mask・・
2022年3月22日
子どもの頃に観ていたテレビのヒーローは、普段は身近にいるオジさんやお兄さんだが、ひとたび事件が起きると布で顔を隠しマントを翻して正義の味方として活躍する。
これを真似したのが、当時の〝ヒーローごっこ〟であり、風呂敷を肩にかけ手ぬぐいでマスクをすると別の人間なった気がしていた。それから60数年後、口元を覆うことが当たり前の生活を余儀なされた。
たいがいマスク姿と言えば、ニュース映像で流れた世間に顔を晒すのを避ける芸能人である。これが今は誰でも付けることで、うっかりすると街で擦れ違っても誰だか見分けがつかない。親しい人だと姿形で認識できるが、そんなときやはり決め手は目元になる。
目と言えば、かつて仕事で扱った商品の一つにアイ製品があり、ラインの引き方、シャドウの塗り方、眉の書き方について講習を受けたことを思い出す。最近、鏡に写る眉毛が薄くなったようで、眉墨が必用かなと思っている。それはさて置き、周りにいるマスク姿の女性の目元は一様に美しく、つい素顔はどうなのだろうと想像してしまう。
このマスクの色はたいがい白だが、彩りのあるピンクやベージュのマスク姿の女性を見て、私もしてみたいとカラーマスクを探してみた。そして選んだのは、黒やグレーではなく明るいブルーと濃い紫であり、何処へ行ってもちょっと目立ち、ラジオの録音でスタジオに行った時や買い物先の若いスタッフから「その色似合いますね」と言われ、誉め言葉に弱い私はすっかり気がよくなった。
昨今のマスクは、機能性にとどまらずデザインも多様化され、江戸時代の稀有な絵師伊藤若冲の鶏や葛飾北斎の富士の絵柄もあるが、それなりの値段だった。
古来の日本でマスクを辿れば、神事で和紙を口に挟んでいたことに始まり、やがて近代になり防塵や感染予防用として普及され現代に至る。
西洋でマスクと言えば、仮面、仮装、隠ぺいを意味するイタリア語のマスケラを指し、化粧品のマスカラにも通じるそうな。ミュージカルやオペラで知られる「オペラ座の怪人」や「仮面舞踏会」は、仮面の下に隠された顔が神秘さを演出させていた。
ところで諸外国からは、屋内のマスク着用義務を緩和する動きもあるようだが、わたくしたちの国ではまだそれを必要としているようだ。
◎プロフィール
〈このごろ〉長年愛読していた歌舞伎専門誌「演劇界」が今月で休刊する。部屋を飾ってきた舞台写真によるカレンダーも今年が最後となった。