ラーメン
2022年4月11日
帯広の鉄南大通りに築何十年も経っている建物があり、一階に店が2軒並んでその右側はラーメン屋である。暖簾をよけて曇りガラス戸をガラガラッと開ける。L型カウンターの中にいる主人と一瞬目が合った。
「どうも」
「あぃ...」
「味噌!」
奥へ縦長の店は、カウンター5、6人に小上りは小さなテーブル二つで4人ほど座れるか。
カウンター越しに主人の仕事振りが見える。煮立っている鍋の中でおよぎまわっている自家製麺の状態をガン付けするみたいにして見詰める。箸で1本つまんで引き上げ、端をちぎって口に含んで硬さ具合などを観る。箸で何度か麺を揺らしてゆく。その横の台に丼を置いて特製味噌を入れ、お玉で寸胴鍋の熱々スープを掬って入れる。レンゲでかき回してちょっと味見する。濃さ加減でスープをちょっと足す。などと無言だがその一連の表情があまりにも怖い雰囲気で近寄りがたい。一杯のラーメンに全集中してつくっているのだった。話し掛けるなど出来ない。これほどに厳しい店主を他に知らない。いったい何故にそんなに怖いのか。自分の何かについてなのか、政治家のでたらめさになのか、それとも腐敗している世の中になのか、はたまたスープの出来具合にまだまだ納得がいかないのか。
忙しいですかとか外は風が強くて寒いねとかなんとか話し掛けたら、「そんなことがなに問題なのだ」と睨まれるような気がしてキンチョーしてしまうのだ。
ラーメンが出来るとおカミさんが運んできて置く。
箸で軽く表面をツンツンと突き、麺をすくい上げてズルズルと啜る。麺の食感は良く、スープは現代風ではなく昔からの素朴でいてしっかりとした味わいに作られ、あまりうるさすぎず、自然と受け入れて充分に納得させられるありようなのだ。良い作品とはそういうものだなと思う。この味というものについて説明しようとしてもなかなかむずかしくて下手に言わないほうがいいのだが、しかし、ま、あえて言わせてもらうのなら「しっかりとした旨味がこもっているそれは素朴な味のする味噌ラーメン」ではないか。なんでもそうだが、立派な味と存在感を表すことは並大抵のことではないだろう。食べ終えると、静かにそして大きく息を吸うと吐き出して、満足感に満ちてゆくのだった。
戸を開けると、暖簾を除けて後ろ手に戸を閉める。風が強くて身に染みるが心はあったかいのだ。いい仕事をしているな。一生懸命なラーメン屋だった。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。