失敗に学ぶ
2022年4月25日
「失敗しなくちゃ成功はしない」とココ・シャネルはいう。
私はシャネルのように大成功した人間ではないが、仕事の失敗は成長をうながすという言葉に同感だ。
札幌時代に、ポスターの描き文字が誤字で刷り直した。社長に呼びだされて叱責された。「校正は編集長にも見ていただきましたが......」と小さな声で応えた。以後、あやうい文字は辞典を開いて確かめた。
30年前に、起業して独立した。制作時間の少ない仕事を引き受けて、徹夜で苦心して仕上げた。その印刷物に誤字がいくつか見つかった。刷り直して、損出分を自己補填した。以来、締切りが早い仕事は「他の仕事が入っているので無理です」と正直に断わることにした。
7年前から写真撮影の取材がある。フリーなので依頼のたびに取材先に一眼レフのカメラ持参で向う。先の撮影時間が延びて、次の撮影に遅れた事がある。撮影時間が近い2つの仕事は引き受けるべきでないと反省した。失敗を戒めに、細心の注意を払うようになり大きなミスも減ってきた。
やがて、K部長から難しい撮影の依頼が来るようになった。とくに面識もない部長だったが、私の写真を見て評価してくれていたのかもしれない。
依頼は山内惠介や戸川よし乃(中村仁美)のコンサート。桂歌丸と三遊亭円楽の「落語二人会」などだった。250ミリの望遠で舞台の人物を撮る。照明やスポットライトの光が強く露出が難しい。落語家を大ホールの2階上の調整室から望遠で撮影した。
露出を変えて1シーンを50枚も撮る。やがて量が質に転換する。
自宅に戻るとカメラのSDカードをパソコンにつないで画像を拡大して確認する。画像を2点選んでメールでK部長に送る。ダメだしされた記憶がない。依頼のときの口調も「またお願いしたい」と言われてきた。
仕事の継続はどこかで信頼があるからかもしれない。私の胸のうちでは、今度の仕事は難しい......と不安に襲われる。不安に動揺しながら、なんとかなる、という根拠のない自信もある。過去の失敗に学び、初心者のようなヘマをやるわけにはゆかない、という自覚が支えだった。
◎プロフィール
●心況(よしだまさかつ)
ロシア軍のウクライナ侵攻がつづいている。戦争は外交の失敗といわれる。
遠くの戦争が「対岸の戦火」とは思えず戦いている。