別れぎわに
2022年8月29日
4月に副業だった取材カメラマンの仕事を辞めた。老朽化して不便すぎる自宅の解体に向けて、片付けが急がれてきたからだった。
約7年間、ショルダーバックにカメラを入れて地元の芽室はもちろん、上士幌、幕別、帯広など愛車に乗って撮影地に向かった。コロナ禍以前はイベントなどが盛んだった。撮影の失敗もあったが、楽しかったことが今でも思い出されて、ほっこりとした心地で胸が満たされる。
郊外にある某小学校の菜園で育てたトウモロコシの収穫日は夏だった。茶色のヒゲの実ったコーンを児童は次々ともいでいった。私は「美人さんたち、はい笑って」とカメラを向けた。すると「美人じゃないよ」と返事が返ってきた。子どもたちの爆笑の写真が撮れた。帰り際に、Tちゃんが「はい、これ食べてください」と収穫したゴールドラッシュという種類のコーンを一本くれた。うれしかった。
初秋の収穫祭は落花生だった。親子参加で、F農場で実った落花生を畑から引き抜いていた。男の子がマスクを外すと、鼻水が見えた。側にいる母親に「お母さん、お兄ちゃんの鼻水が出てるよ」と私は声をかけた。母親はあわててテッシュでふいた。「おっ、いい顔だよ」と言い私はシャッターを押した。農道を帰りかけると、車がゆっくりと横切った。何げなく目を向けると、車内から先ほどの親子3人が笑顔で手を振っていた。私は素早く手を振り返した。一瞬の反応だった。気づいてよかった。
郊外にあるY幼稚園ではその環境を活かして、園児がジャガイモを育てていた。夏の収穫の日、園舎の裏山の畑に歩いて向かった。収穫の場面を撮影し終わって、袋に入ったイモをもらった頃から小雨になった。帰り道は下り坂で、濡れた坂道を怖がって女の子が佇んでいた。私は、その子の手を握って「一緒に歩こう」とうながした。玄関前で、先生が待っていた。別れて私は駐車場に向かいながら振り返ると、女の子は私と手をつないで坂道を降りてきたことを報告しているようだった。先生がこちらを向いて何度もお辞儀をしていた。私は手を振って応えた。収穫のおすそ分けはうれしいお礼だが、別れのシーンは心に残るものだった。
◎プロフィール
心況(よしだまさかつ)
出会いがあれば別れもある人生。鮮やかでありたい。/商業デザイン、取材カメラマン、派遣業務などを遍歴。「モレウ書房」代表。