ソロバン・・
2022年9月19日
小学生の頃、親から「何れ役に立つ」と言われ、嫌々ながらそろばん教室に通わされた。最初は左側の珠を、右手親指と人差し指で1から10まで弾き、順々に右側まで繰り返すばかりであった。こうして珠に慣れると足し算と引き算、掛け算に割り算と難易度が高くなり、伝票の捲り方や暗算を覚え、総仕上げとしてそろばんの検定を受けた。
教室には様々な学年がいて、夏のある日、同い年位の男の子が隣に座った。話をするとよその土地からのようで、転校生と思いつつ言葉を交わすようになる。3ヶ月程すると淋しそうな顔で「今日で辞める」と告げた。丁度その時期に、小田原の浜ではサーカステントが建っていた。きっとサーカス団の少年だったに違いない。いま思えばもっと話をすれば良かったと残念な気持ちになる。
やがて通ったのが商業高校であり、卒業するまでに算盤検定3級の取得が必須とされた。クラブ活動でそろばん部もあったが、幸い小学校の時に検定を取得していた。その頃テレビでは、ボードビリアンのトニー谷による〝そろばん芸〟が流行り、教室でシャカシャカと音を立て怒られたものだ。
漢字で算盤又は十露盤と書き、珠の素材はカバノキやツゲが好いそうな。遡ると1570年代に中国から伝わったそうで、江戸時代には、寺子屋で「読み書きそろばん」として習い、帳付けや商いには欠かせない必需品となっていた。
会社に入った頃は、まだ電卓が一般的でなく、仕事上でのツールとして、子どもの頃から使っていたものを机に置き、そして営業活動ではカバンの中に小ぶりな算盤を持ち歩いた。やがて電卓は拡がったが、馴染んできた算盤を手放せず、得意先で商談の際に件の珠を弾くと珍しがられた。これこそ「役に立つから」と教室に行かせて貰えた賜物である。
国内でそろばんの産地は、古くから兵庫県「播州そろばん」と島根県「雲州そろばん」が名高い。今では、パチパチと珠を弾く音に因み、8月8日が「そろばんの日」だとか。指は第二の脳であり、脳の活性化に算盤は効果があると言われる。もっとも、日常の中で家庭や会社に算盤があるのだろうか・・。
そんなことを思いつつ、珠が黒っぽくなって、年季の入ったそろばんを久々に取り出してみた。そして思わず、「ご破算で願いましては・・」と弾いてしまった。
◎プロフィール
〈このごろ〉この夏は高温に大雨と蒸し暑さで、体温の調整が難しかった。それでも時は移ろい赤トンボに目を留め、コオロギの音を耳にするともう秋。