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エッセイSP(スペシャル)

よみがえる過去

吉田 政勝

2022年10月24日

 古い家が更に老朽化して生活全般が不便になり、自宅の解体に向けて夏頃から片付けをしていた。
 生業としてきたデザインの製作物やアルバム帳の写真、手紙やハガキ類などをタブレットに次々と記録した。思い切って捨てるつもりが迷いが生じた。それらを目にするとあらためて自分が必死に生きた青春が浮き彫りになってきた。
 10月の初旬、やや涼しくなった日に、屋根裏にハシゴをかけて上がった。川端康成や五木寛之、太宰治など読み終えた本がヒモで束ねられていた。プレイボーイ誌や私に届いた郵便物などもダンボール箱に入っていた。
 屋根裏から下ろしそれらを一階の自分の仕事部屋に移して、手にとった。給料袋や銀行の通帳も出てきたのには驚いた。貯金するほど生活に余裕があったわけではなく、通帳はアメリカの通信教育の受講料の毎月の支払いのために作ったものだった。5.3千円を19回、ボーナス払い1.5万を夏と冬の4回払っていた。ローンの明細書も出てきた。
 当時18歳、札幌での私は北海道デザイン研究所の夜学部に学び、昼はN図案社に勤めていた。だが、夏にアメリカの通信教育の案内書を手にした。ノーマンロックウェルやボブピークなど著名な講師陣の顔ぶれに心が躍った。親の支援を当てにできない私は進路をいつも自分で決めてきた。N図案社ではボーナスがなかった。
 その頃、渡りに舟で転職の話が舞い込んだ。「某出版社でデザイナーを求めている」と知り合いがすすめるのだった。N社の社長に退職を伝えると引き留められたが、私は退職願いを郵送した。世話になったN社を辞めた勝手な自分の立場をわきまえていた。その後ろめたさが心の底に沈殿し続けた。 
 転職はベースアップとなり米国の通信教育の受講料を払うことができ、暮らしも楽になった。その後、N図案の上司から励ましの手紙も届き、年賀状もやりとりしていた。不調法で迷惑をかけた私にはそれが救いになっていた。
 半世紀も前の生活がありありと浮かんできた断捨離のひとこまだった。

◎プロフィール

心況(よしだまさかつ)
写真アルバムを整理していると、わが人生がよみがえる。/商業デザイナー、コピーライター、派遣業務などを遍歴。モレウ書房代表。

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