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エッセイSP(スペシャル)

共に語る

吉田 政勝

2022年11月28日

 10月のなかばころから胃腸が不調だった。食欲の秋なのに少食の日がつづいた。気づくとウエストが細くなり、70キロの体重が4キロも減っていた。その後、胃腸内科の診察をうけて、薬をもらって服んでいた。
 この夏から、老朽化した家の片付けと引っ越し先への荷物や家具の移動に専念してきた。その疲れが体調につながっているのかと私なりに憶測した。というのは、同級生が社宅からマイホームに引っ越した時に「作業の疲れで3キロ体重が減った」と聞いたからであった。
 コロナ禍で、人と会うことも叶わずという事例も増えてきた。ネットニュースで、英国の女優ケイト・ウィンスレットが米国の俳優ディカプリオにひさしぶりに再会して号泣したという。映画「タイタニック」で共演してふたりは親しくなったが、コロナ自粛でお互いに国内に留まっていたから。3年ぶりの再会に「涙が止まらなかった」との彼女の気持ちがよく理解できた。
 11月なかばも、私は移転先で使う家具を探して帯広の4店舗を回っていた。一息つくと昼食の時間が近かった。
 1人黙食もなれたが、誰かと話がしたい心地だった。頭にT社長の顔を浮かべた。彼とは若いころからの知り合いで、今も心置きなく話せる尊敬する経営者だ。だが、この日はT社長は忙しいはずだ、そう思いながらスマホの電話番号を押していた。やはり、T社長は打ち合わせが重なり忙しかった。
「13時過ぎの会食ならいいかな」との返事だった。待ち合わせの社屋に着くと、彼は「車でついてきて」と言った。和食の店に入った。食事をしながら、
「何か大事な話があるのではなかったか」食卓の向こうからT社長が訊いた。
「特にないのですが、社長と話がしたくなって......」と私は応えた。
 この2年間、ときには無駄に思える人とのおしゃべりが日常の抑圧を解いていたのではないかと気づいた。会話は相手との共有部分があるほどコミュニケーションが円滑になる。
 短い談話がありがたかった。
 私はメールで「ことばの滋養いただきました」と感謝を伝えた。T社長の返信には中国の故事を引用し「一夜君と共に語る、十年書を読むに勝る」とあった。

◎プロフィール

商業デザイン、コピーライター、取材カメラマン、派遣業務などを遍歴。趣味は読書と映画鑑賞。「モレウ書房」代表。

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