某大手病院長Yとのクリスマス
2023年1月23日
Xマスの昼。外科医のY院長から電話が来て、
「街ではなく、家で飲るべ。何か作るから」
「どうしようかなぁ、ま、後でメール入れるから」
と、いったん切ったが、やはりちょっと疲れもあるしそれに風も強くて寒いし...別の機会にでもするかと思って、断りのメールを送った。
すると夕方近くに電話が着た。
「来ないなんてダメだ! 話しもあるし、迎えに行くから」
いくぶん強制的な口調でしょうがないなぁ。じゃぁ、行くことにするか。
「わかった。待ってる」
風呂に入り、上がってカッコントウを服んだ。手土産に自分が飲むつもりで買っておいた800円の有機赤ワインを用意した。笑ってはいけない。値段ではなく、これが意外にいい味がするのだ。
彼が来てくれてジープに乗り、家に着くと上がってゆく。
自分はダイニングテーブル席で寒さを感じ、防寒ヤッケを着たまま大人しくしている。ぼくは肴は普通にあればいいだろうと思っている。街へ飲みに行くと、串焼き、酢の物、おでんだとかなどがいちばん落ち着く。そういった感じで満足なのだ。
彼はいつの間にか半袖Tシャツに着替えてキッチンを縦横に動き回っている。ザッ、パタン、カチャッ、などと音がする。そうか、何時間も前から掛かっていたらしいことに気が付き、意外なありように面食らった。昔から知っている彼だがこんなことをするなんて全然知らなかったな。そうして皿に乗せて出てきてたまげた。
一皿目、大きめのプレーンディッシュに柿スライスの生ハム巻きとプラターチーズのレモン胡椒オイル添え。二皿目、ホタテ・舞茸・ホウレン草のキッシュ。三皿目、ホタテのバターソテー。それにワインは2020年度産白ワイン、カルシーナ・ゲルチーナ・ガビ。
すごいな、こんな本格的な料理をするなんて思ってもみなかった。そうして食べる度に、彼は「どうだい、うまいだろう...ちゃんと作って美味しく頂きながら会話をする、ということはいいことだよな」と、なんだか同意を求めているようで内心可笑しかったが。
外科医は人の身体に不都合があれば治療しなければならない責任と闘っている。それは詰まるところどこか料理をするということとも繋がっているのではないかと思えてならない気がするのだが。そして彼は文章を書くこともあって文才があるのだ。ぼくはコラムでも書いてよと迫っている。
とにかく自分の調子はどうなるかと思ったが、晩餐もワインもベターでとても良かった。医者のこと、子供や孫のこと、文章を書くことや文学、人生などと、話が弾んでいった。それにしてもお互い料理を間に語り合いながらも彼はぼくを見ていたが、どうももしかしてオレはクランケだったのかなぁ...。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。