倫社の授業で
2023年2月27日
手紙やはがき類の処分をしていると、高校の先生方の年賀状が出てきた。その中から、社会科担当の女性中林教諭のはがきを手にした。
「冬休みに友人と2人でイタリア旅行をし、古代からルネサンス期にかけての文化遺産を見てきました」と旅行から戻ってからの文面だった。そのハガキを読んでから、倫社の授業での出来事を思い出した。
中林先生の世界史も倫社も好きな授業だった。その頃、2年生の私はチャップリンの映画「独裁者」をテレビで観て、ラストの演説の内容に共感した。
「チャップリンの演説、5分ほど録音したので先生の授業でみんなに聴いてもらいたい」と中林先生に提案した。
了解を得られて、テープレコーダーを次の授業に持参した。
「人生は自由で楽しいはずであるのに、思いやりがないと暴力だけが残る。アンナ!」とチャップリンは兵士に語りながら、最後は恋人の名を呼んだ。
私はクラスの推せんで学級委員長を任せられていたが、校内で騒ぎまくり、授業中も私語が飛び交う自由な生徒たちを内心でうとんじていた。騒ぎに同調しない浮いた生徒だったが、孤立をおそれてはいなかった。
その後、中林先生の授業中に、右後ろから、先生の授業を邪魔するM男の声がした。揚げ足をとる嫌な口調だった。私は後ろのM男を見て、
「やめろよ!」
と声を発していた。彼は少しひるんだが、小さな声で反発してきた。
「わかっていないのか」と私は立ち上がっていた。
中林先生は教壇から降りて、あわてて2人を制止した。私は席に戻った。
もし、先生の制止をふりきってM男と教室から出てたら、どうなっていたか?。1階の生徒玄関前に彼を連れ出し、言いたかったセリフがある。
「M男のバスケットはかっこいい。ドリブルもシュートもな。でもな先生への冷やかしはかっこ悪くないか......」
だが、短気な彼がそれでも反発し暴力に出たら? と予想もする。私なりに鍛えた体力で応じ、防御するしか術がないと内心自衛の意識が働く。
その後の人生でも、口論から暴力になる機会がなかったのは幸いだった。
◎プロフィール
商業デザイン、コピーライター、取材カメラマン、派遣業務などを遍歴。趣味は読書と映画鑑賞。「モレウ書房」代表。