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エッセイSP(スペシャル)

クモの糸は金色

吉田 政勝

2023年6月26日

 「悪性リンパ腫」で5月から、私は治療を受けていた。
 入院する前に、今まで世話になった恩人に病状を手紙で伝えた。「退院したら会いましょう」「完治されるよう祈っています」と返信が届いた。
 病院のベットで点滴を受けながら、天井を見つめていると、金色のクモの糸が降りてきた。私は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を想起した。金の糸は生への希求として自分の想念で描いた幻か、そう思っていると消えた。
 入院から9日後だった。
 4人部屋のカーテン越しに隣から、患者と看護師との会話が聴こえた。どうやら若い男が退院するようだ。
「彼に話しかけてもいいですか」と私は看護師に断りを入れて、
「退院するんだね。よかったね」と声をかけた。彼は「まるで出所する気持ちですね」と笑った。
「いや、戦場で負傷し、手厚い看護を受けて無事に故郷へ帰還する兵士じゃないのかな」と私は返した。
 看護師は笑いながら、私の顔を見ていたが、私は目に涙がにじんできたので、あわてて自室のカーテンに戻った。
 私は人生の折々に、何かと本から学んできた。自分の難局に「血液のがん」という本を手にした。化学療法の「R|チョップ療法」が効果をあげていると知った。Y担当医も、その方法で取組むと説明してくれた。
 おかげで、腫れていた胃の病巣が小さくなってゆくのが自覚できた。担当医が「順調にきてますね。5月末に退院できます」と伝えられた時はうれしかった。
 その直後、デイルームに寄ると「投書箱」があった。「血液内科」チームへ感謝の思いを伝えたかった。お礼を述べ、末文に「当たり前の生活ができる喜び、人生が更新された思いです」と記した。
 それにしても70キロあった体重が半年で15キロも減った理由が、古い家の片付けと、同時に引っ越しをした疲れのせいと勘違いしたのがガンを悪化させたのかもしれない。幸い最新化学療法により、命の継続がなされたことにひたすら感謝である。

◎プロフィール

 「血液のガン」と診断された時に、化学治療の成果を信じる気持ちと、「もしも!」と命のあやうさが交錯した。

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