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エッセイSP(スペシャル)

グルメじゃないが

吉田 政勝

2023年7月31日

 昨年の秋ごろから、食欲低下が始まった。食欲不振の原因はなにか?のんきな私も少しは考えるようになった。(これは体の不調なのか......)そう考えるものの、夏から忙しい生活だったので、無茶した疲れが蓄積されたのかもしれない、とも思った。
 4月で主な仕事をやめたのは、築50年はすぎた古い家の片付けに専念するためだった。同時進行で賃貸マンションへの引っ越し作業もあった。
 その他に「芽室文芸」の編集委員であるわたしは会議に出て、応募原稿の校正を担当した。さらに図書館の「読書感想文」の審査を委嘱されて児童の応募作を読んでいた。
 そんな慌ただしい昨年だったが、なんとか新年を迎えた。見た目においしい「おせち料理」だが、箸がでない。友だちと会って、そばやラーメンを食べるが、麺が残ってしまう。
 やはり、消化器系内科で検査が必要と考えた。内視鏡と採血の検査で「悪性リンパ腫」と判明。血液のガンである。K病院の血液内科に入院した。抗ガン剤投与中は絶食で、栄養食も4割摂取ほどで、わが体重はさらに減った。だが治療の成果で、胃の病巣は小さくなり血液の数値も良好に。3週間後に退院できた。通院での抗ガン剤治療は継続し、診察室で担当医から経過が伝えられる。
「数値が良くなリ、落ち着いてきましたね」
 そのことばに安寧を得たわたしは帰路についた。途中、無性にラーメンが食べたくなった。
 午後3時だったが、広小路のM店の暖簾をくぐった。店員に顔を向け、
「退院した病み上がりの身で、完食できないかもしれませんが、麺を少なめに」とお願いし、調理人にも頭をさげた。さらに、
「ここの店のあっさり醤油ラーメンが好きで......」とつけ加えた。
 やがてラーメンが目の前にきた。匂いが食欲をそそる。透明なスープを飲み、くねらせて沈んでいる麺を口に運び、目を閉じて咀嚼する。こうして完食し、店主と店員にお礼を述べた。出口の扉でわたしは向き直り、
「ごちそうさまでした」と頭を下げた。

◎プロフィール

グルメではないが、胃袋の当たり前の働きにひたすら感謝する。病気でそれを痛感した。

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