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エッセイSP(スペシャル)

幕別のフミエさん

梅津 邦博

2023年7月10日

 六月初め頃のある日。十勝管内豊頃町へ出張した帰り、幕別町相川の畑作農家フミエさんのところへ久しぶりに寄ってみた。家の横に2棟の大きなビニールハウスがあって車を止めたら、彼女はポット苗の管理をしているらしい。気付いたようで立ち上がると、反り返った姿勢で両腕を腰の少し後ろ側で交互に振りながらして現れた。しゃがんでの作業はきつくて大変だなと思う。
 「こんにちは、忙しいね」
 表情がふわっと小さく微笑んでいて、まるで顔にやさしい陽の光が当たっていくぶん眩しそうな表情にも見える。
 「まぁ、少し落ち着いたけどね」
 息子さんと2人で一生懸命仕事をしている彼女はいつもどこか淡々としているふうだが、時にはなんとなくなんだろこの人はとケゲンそうにも感じられる表情もあって、人間性の面白みもある。
 「ところでレタス持って行きなさいよ、ハネもんだけど」
 「あ、いいのかい」
 入口の横にビニール袋に何個か入っているのがあって、指を指す。どういうふうにハネもんなのかはわからないが、ありがたく礼を言って頂いた。ショッピングセンターで時に買うが付け合わせの食材として便利でもある。でもそんなにおいしいとも思っていないのだけれど。しかしこの地域の土壌の質は北海道でも1、2を競っているとか言われて作物にとってはとてもいいらしい。
 夕食時、高齢の母上が、
 「どこかへ食べに行こう」と言ったが、
 「外食はできるだけ避けよう、何かつくるからさ」
 彼女はにこりともせず、返事しない。
 「いいか...つくるから」再度言うと頷いた。料理など大して作れるわけではないのだが、なんとかやらなきゃ...。
 中くらいのレタスの表面2枚を剥がして残ったものを2つに切り分け、断面が黄緑色に幾重にも重なっていていい感じだ。ひとつを4枚ほど剥がして縦に少し大きめに4列に切り、さらに横にして同じくらいの大きさにザクザクと切る。ボウルに水を張って入れると、さらにフレッシュ感があふれてきた。少し経って中皿にサッサッと盛り、小さい苺を縦に8等分して横にも8等分する。チェダーチーズ1枚を5㍉ほどのサイコロ状に切る。その二つをパラパラとまぶしてゆく。マヨネーズを少しかけ、キューピーのオリーブオイル&オニオンドレッシングをサーッとかけ流す。
 「じゃ、頂きましょう」
 フォークで少し突いて口に入れる。食べはじめた途端、
 「ふぇーっ、フミエレタース! デリシャース!」
 驚いた。今まで食べてきたレタスはいったいなんだったのか...。
 母上に、
 「どうだいこのレタスサラダの美味しさは...」
 と尋ねたら小さく頷いた。よけいなことは喋らないのだが、なんだか知的な表情をしている。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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