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エッセイSP(スペシャル)

おさがり・・

たかやまじゅん

2023年12月18日

 寒くなり外に出る時には義父から貰った暖かなマフラーが手放せなくなった。そして思い出すのは子どもの頃、祖母が縫ってくれた〝ちゃんちゃんこ〟が温かったことである。やがて袖が通らなくなると次弟が着て、最後は末弟に行った。高校の時にクラブの先輩が卒業する際、教科書一式を譲って貰い部室に隠して置き登校すると先ず部室に駆け込むのだった。
 こうしてまだ使えるものは、兄弟姉妹や身内の間、年長者から年少者に受け継がれ、周りから「それいいね」と言われると、『コレおさがり!』と自慢したものだ。
 このように人は生活の中で物を大事にし再利用で活かして来た。歴史を遡ると室町時代には古着屋があり、今も続く〝世田谷のボロ市〟は戦国時代に始まるそうな。まして鎌倉時代に質屋の原型が出来て、江戸時代は町中にあったと物の本に記され、今日のリサイクルショップやフリーマーケットに通じるものと言える。
 やがて時代と共に経済活動やライフスタイルが拡大すると、販売や購買の形態も著しく変貌して、廉価衣料品店や均一ショップに人が集まる反面、デパートのテナント専門店や大都会には高級ブランドのウインドウが軒を連ねている。因みに雑誌の和樂に載っているヴァンクリーフ&アペールやカルティエなどハイジュエリーの価格は目が飛び出るほどで、まさに消費の二極分化を垣間見ているようだ。
 ところで我が家の洋服ダンスには、勤めていた頃の背広を未だに吊してあり年数回着る機会があるものの、体型の変化で年々ズボンが穿けなくなってきた。ネクタイの本数も多く、珍しいデザインがあるとまだ大学生だった頃の息子が絞めていた。
 これが今は逆で彼の物を私が着るようになった。赤や青など明るい色を好んだ彼の物を羽織った鏡に写る自分の姿を見ていると、ちょっぴり若返った気がしてニヤリとする。これはおさがりと呼ぶのではなく、子の物を親が、弟妹のを兄や姉が着ることを〝おあがり〟と呼ぶそうで、家人の服を義母が着ていたことを思い出す。
 たとえどんなに時が流れても身近な人の使ったものを身にまとうと、いつもその人と一緒にいるような思いになる。

◎プロフィール

〈このごろ〉天気予報で傘を持っていくと降らず、晴れているからと安心し持たずにいると降ってくる。最近の天候は目まぐるしくなった。

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