映画館・・
2024年2月19日
本誌との繋がりは36年前になる。最初に掲載した書き出しは、「かつて映画が娯楽だった頃、どの町にも劇場があり・・」と映画館のことを綴っていた。その劇場=映画館は、昭和35年(1960)版の映画館名簿によると全国で7403館(沖縄を除く)あって、北海道は604館で東京都の634館に次ぐ第二位の座を占めた。因みに札幌市は51館、帯広市には10館、十勝支庁管内が17館と記録にある。
子どもの頃から映画が好きで、よく映画館に足を運んだ。暗闇の館内は、後方の小さな窓から舞台に向かい紫煙の中を一条の光が走り、天井から響く音楽を聴くとワクワクして、むせかえるような煙草の匂いの中でスクリーンを見上げていた。
画面に写った俳優がマッチを擦って煙草に火を点け、ふわ~と煙を吐く仕草がカッコよく、早く大人になりたいと憧れを抱いた。やがて社会人となり、休日を映画館で過ごすことが増えたが、この頃の館内はすでに禁煙、映画を観終わりロビーに出ての一服は、格別な味わいであった。それが今では、建物や敷地内まで禁煙になっている。そして映画の中で、煙草を吸う場面は見掛けなくなった。
その身近だった映画館が街から消えて、近年は館内に幾つものスクリーンを備えたシネコンが造られた。床はワンスロープでステージを見下ろせ、前の人の頭が遮らず画面も見易い。ところによって大画面のIMAX、3面マルチのスクリーンXやドルビー音響、更にゆったりとしたプレミアムシートなどが導入されてきた。そしてスクリーンに映し出されるのは、暗闇を走るあの光ではなくデジタル映写に変わる。
さらに、かつては一日中過ごすことも出来た映画館が、シネコンでは時間ごとの指定席となった。ところがしばらくすると、何番のスクリーンで観たのかを思い出せない。
私にとって映画とは、どこで観たのか、そして誰と行ったのかも大切なひとコマであり、最初は親に連れられそして友達と、やがて身近な女性で、次は我が子と一緒だった。こうして映画館の暗闇が共通の場所として記憶に遺された。
今、あの頃の日々を振り返ると、どこの映画館で誰と一緒だったのか、題名と音楽の中に甦ってくる。
◎プロフィール
〈このごろ〉かつて二度訪れた能登半島、輪島朝市の賑いや白米千枚田の絶景が甦る。その時に買った手作りの小さなワラジは、今も飾ってある。