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エッセイSP(スペシャル)

冬は転んではいけない

冴木 あさみ

2024年3月 4日

 札幌はまだ雪に閉ざされたまま。今冬の異常な高温の繰り返しによって、氷の路面はいつになく危険だった。
 とある日、妹から連絡が入る。サ高住で暮らす高齢の父が、転倒して肩を骨折したとのこと。あれほど一人での外出は禁止と厳命していたのに。駆け付けた私に、怒られまいと父は素早く言い訳をする。
「玄関の中だからな。外じゃないぞ」
 どうやら靴底のすべり止めのピンが、玄関マットに引っかかったらしい。理由はどうあれ、転倒して骨折したことに違いはない。しかも土曜日の午後である。
 救急指定病院ではレントゲンを撮ったが、複雑な骨折なので肩の専門医に診てもらうようにと、湿布薬一つで帰された。
整形外科の外来受診は二日後の月曜まで待たなければならない。三角巾で右腕をつってベッドの端にしょんぼり座る哀れな父。動くと激痛が走り、着替えどころか横になることもできない。杖をつく利き腕を負傷したため、歩行も困難になりトイレに行くにも介助が必要になった。しかし、父は要支援という軽い認定なので、施設のスタッフの助けも基本的に受けられないという。結局『好意』による手助けを受け、何とか月曜日まで我慢してもらう。
 MRIで更に精密な画像を見ると、骨が骨の中にめり込み、関節の先端部分は粉砕骨折。でも、人工関節ならばすぐ回復するだろうと安易に考えていたが、問題はそこではなかった。西へ東へと車いすを搭載できる介護タクシーを使い、三日間で四つの整形外科を回ることになる。
 個人医院A医師「手術はできますよ。でもベッドが空くのは5月頃かな」
 個人医院B医師「人工関節の手術は難しくないですよ。一番早くて、4月中旬だな」
 C医院「専門の先生が月二回来ます。来週の予約とりますか?」
 目の前に立ちはだかる問題は、冬場の整形外科の患者が多すぎることだった。父をこの状態で2か月も辛抱させるのは無理だ。どうにかしないと...。
 ここで変化球を投球。リハビリに特化した中規模の病院に車を走らせた。
 D医師「これは見事な砕けっぷりだ!手術してもしょうがない。人工関節も 杖ついてるうちにポキッといくよ。この状態で動かす訓練しようか。それより歩行訓練だな。すぐ入院」
 この先生はわれらの神だ。受け入れてくれる。リハビリさせてくれる。胸をなでおろす妹と私の傍で、痛いまま動かす訓練という暴挙ともいえる医師の判断に、父の顔だけが渋かった。しかも本人、入院期間は二~三週間ぐらいだと思っている。
 「桜の季節までリハビリは続くよ」
 その一言をまだ言えずにいる。

◎プロフィール

〈作者近況〉
弥生三月。日ごと力を増す太陽に心弾む。一方別れの季節でもある。複雑な心境の三月なのだ。

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