アラスカのカフェ
2024年3月11日
寒い毎日だ。2月のある日、行き付けのカフェに入るとテーブル席にカバンを置き、カウンターでコーヒーを注文する。
紙とペンなどを取り出し、エッセイの締め切りが迫っていて何かを書かなくてはならない。隣のテーブル席に20代なのか女性客がやってきて着席した。小さなカバンのほかに、トートバッグもあって中から膝掛なのかを取り出し、腰回りから脚へぐるりと掛けた。温かそうだなと思う。
冬はどこの店へ行っても寒くて軽装など出来ない。客は皆防寒着を着ている。人の2倍寒がりの自分も同じスタイルだが、身体が緊張してなんとなくセメントか何かが貼り付き始めているような感じがして目をつぶる。
ううっ...「ちゃむい...」
気が遠くなりそうだ。眠くなってゆく。
...ふと気が付くと、あれ...ここはどこなのか...、ぼくは何をしているのか...。右手のペンが白い紙の上でなんだか字を書いているらしい。とにかく寒い。眼の前で息をハーッと吐きだしたら白い煙のようなものがヒヮーッと広がっていくような気がするのだ。寒さゆえに眠気が湧き出して身体も固まってきているのだ。そうしてちょっとは寒さに慣れさせられてきているのかもしれない。こういう時の為にラクダ色の肌着と股引が必要だな。いや、オレハマダワカイノデジジスタイルハデキナイノダ。
それにしても何故こんなところにいるのかよくわからない。此処はどこなのか...。そうか...理由はわからないがどうやらここは日本ではないらしい、どこかアラスカだかのカフェなのかも知れない。そんな気がしてきた。ぼんやりとした頭でかすかに店内を見廻してみた。多くの人々が楽しそうに会話しているではないか。壁には発色がよく出ている大きなメニューボードが掲示してあり、ハンバーガーもドリンクも特大カラー写真でアピールしているではないか。ぼくはそれらにも煽られてふらふらしているのか。スタッフは皆一所懸命に動き回っているがなんでそんなに元気なのか。ペンが止まった...眠い...ここは桃源郷ではなくどうやら寒源郷ではないのか...。
「いらっしゃいませ!」
眼の前で、女性スタッフが嬉しそうに挨拶している。
(え、あなた誰?...)
ニコニコしているその顔はぼくを見ていた。
途端に我に返った。あ...そうだった、カンダテンチョウではないか。そうかここはいつもの店だった。
「お世話になってます」
寒いけど正気に戻った。スタッフは皆明るくて礼儀正しく、ぼくは気に入って通っている。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。