出かけるのだよ
2024年4月 8日
夕暮れの西日を眺め、ちょっと居酒屋へ行くべく街へ出かけることにした。家を出て20メートルほど歩いて、あ、ボールペンを忘れた。ショルダーバッグに下書き用のメモ用紙などは入っているがペンがないとどうしようもない。で、戻ってペンを取ってまた出る。プラチナの千円だがわりと立派なもので、3色タイプで使い勝手が良くて重宝している。ホントは万年筆が絶対だけれども飲食店のカウンターで使うにはちょっと、と思って持ち出さない。
10メートルほど行って、「あ、テレビのコンセントを抜いた方がいいな」と思って戻り、抜いた。よし! と出かける。しかしついでに今日の北海道新聞を持っていかなくてはと、たたんでバッグに入れる。何しろムガクムサイゆえにさまざまな文化ジャンルの話題を根掘り葉掘りと、ビールを飲みながら眼を通すことがいいのだ。
朝、仕事に出かける。車に乗ったら、サイドカバンを忘れていることに気付く。取って来て車を走らせようとしたら間もなくまた戻るのだ。水のペットボトルを持ってこなくては。そして出ようとするとちょっと待てよ、朝刊記事で、ある外交問題と科学の評論が気になって切り抜きしたのをコンビニでコピーしなくてはならないので、とそれも持ってくる。
そうして家を出ようとすると、母上がやって来て、
「おまえ何してんの!」
「いや、ちょっとわすれものが...」
「ほんとに何ほどアタマが...。」
(うるせえんだょな)
「あのね、あの偉大なる巨人軍の長嶋茂雄さんはね、タクシーで球場に向かって出かけたあと、バットを忘れたっていうんで家に戻ったことが何度もあるんだよ...天才って凄いな」
「なに言ってんの、おまえはテンサイなのかい」
「いいから、いいから」
そういったことも個性だからいいんだよ。それにあれこれと動いているが、そのたびに実はいろんなことについて考えをめぐらしてはいるのだった。それはとても為になることでプラスの場合が多い。いろいろ動いているということは良いことなのだ。
次の日の朝、仕事に行く時、
「忘れ物などないようにしっかりしなさいよ」
母上は仰られたので、
「畏まりました...」
青い空の下を運転して出発したのだった。
ヤバイ、書類ひとつ忘れたな...。戻って来てそっとドアを開け、そっと歩いて書類を取り、そっと出て行った。
いいではないか自分のペースで行くのだオレは。ふだん下らんことで気にすることが多いくせに、こういう肝心なことでは気にしないのだ。変だな。
◎プロフィール
帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。