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エッセイSP(スペシャル)

音··

たかやまじゅん

2024年5月20日

 物ごころ付いた頃の音の記憶は、小田原にあった生家近くの蒲鉾工場の音、さらに豆腐屋のラッパや「アサリにシジミ~」など物売りの声が混じり、正午には消防署のサイレン。下校すると紙芝居の拍子木が響いて来た。家の中では、台所からトントンとまな板やお湯の沸く音を耳にし、何が食べられるかとワクワクしたものだ。
 やがて社会人となり都会へ出てからは、電車の人混みや車の喧噪が日常の音となる。会社はまだ週休二日制ではなく、土曜日は午前中で終わる〝半ドン〟。これはオランダ語で休日を意味するゾーンタクが訛ってドンタクになり、往時の土曜日は半日勤務だったので半ドンと呼ばれた。一方、皇居では正午にドンと空砲を打っており、丸の内界隈ではこの音で終業したので半ドンと呼ばれたとの説もある。
 その後転勤で各地に住み、折々の音が記憶として遺った。その一つが帯広でのこと、真冬の朝は玄関から物音が聞こえた。それはドアが結露して開かず、家人が金づちで床の氷を割っていたのだった。名古屋では通勤で最寄りの地下鉄までの間に擦れ違う登校の女子高生たちの賑やかさは今も耳に遺る。こうして長い歳月を様々な音と共に過ごしてきた。
 札幌に我が家を建て19年になった。窓の外には登下校する子どもたちの声、中学校からは放課後に爽やかなコーラスが流れてくる。このところ風が強いと家がキシキシ鳴り、電線が揺ら揺らするのが窓から見え、壁を叩く雨音も強くなった。これは周辺に高層マンションが増え、風の向きが変わったことに起因するようだ。
 札幌市民憲章の前章に、「わたしたちは時計台の鐘がなる...」とある。その時計台もビルに囲まれて、日本三大ガッカリ名所の一つと揶揄されるが、その昔は高い建物もなく、遠くでも鐘の音が聴こえた言われる。この鐘は毎日、時の数だけ156回鳴り、中でも一番美しく聞こえるのは11時で、これは12回ではなく、一つ手前の11回が余韻として遺るからだそうな。
 昨年はいつも聞こえた盆踊りの音を聞くことがなかった。最近、この盆踊りの曲をイヤホンで聴きながら踊るとか...これこそ不気味な感じがしないでもない。
 まして除夜の鐘が中止になり、お祭りや運動会、公園ではしゃぐ子どもの声がうるさいなどと取り沙汰されている。そうすると周りから子どもたちのはしゃぐ明るい声が、何れ聞こえなくなるのではと思ってしまう。

◎プロフィール

〈このごろ〉
元禄時代に大名の経歴などを纏めた「土芥寇讎記」(どかいこうしゅうき)の復刻版を読む。藩主の人柄や領地の模様が記されて面白い。

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