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エッセイSP(スペシャル)

気になるお店

冴木 あさみ

2024年7月 1日

 最寄りの地下鉄駅の近くに、行きつけの八百屋がある。独自の仕入れルートを駆使しているようで、規格外品などの野菜を安く提供してくれる。品ぞろえも量も豊富とは言えないし、本日の目玉商品などは、売り切れ御礼。補充はできないので、早い者勝ち。でも安いということは何よりありがたい。私は週に二三度利用していて、お陰で野菜豊富な食事を満喫している。
 つい二か月ほど前に、その近くにピザ屋が新しくオープンした。繁盛している八百屋とは対照的に、そこの物件はこれまで入れ替わりが激しかった。前の店も思うように集客できないまま、この春引っ越しした。不動産とは不思議なもので、どの町にも開店閉店を繰り返す場所というのがある。負のイメージがつくせいか、それとも風水か鬼門か、たまたま不運が重なっただけなのかは知らない。この物件もその類と言える。さて、新しい店はスイーツ系か、カフェか、弁当か? あらゆる予想を撃破して、やって来たのはなんとピザ屋。道路を隔ててお向かいには日本で最も人気のあるイタリアンファミレスがあるというのに。
 開店準備の頃から八百屋での買い物帰りちらちらと中の様子を伺う。若手経営者かもしれない。通りに面して一面ガラス張りの店は内部がよく見える。シンプルな内装に、ビビットカラーの椅子を設置している。キッチンは見えないが、石窯までは無いようだ。
 私の住むこのエリアには、前出の超有名なファミレスの他に、ちょっとグレードアップさせたイタリアンレストランがあり、住み分けが上手くできている。他にイタメシ酒場が何軒もあるが、どの店もこの街に根付いている。イタリアン激戦区といえるこの場所で、どうアピールしていくのか興味津々だった。
 開店から二か月ほどが経つ。これまで中に客の姿を見たことは一度もない。正確に言えば開店直後に数組を確認したが、多分店の関係者だろう。
 平日の夕方から夜にかけても、休日の昼も、誰もいない。若い店員は時々店の前でチラシを配っている。
「テイクアウトいかがっすか~?」
 ショーケースの中には、乾いてくたびれたピザが数枚並んでいる。いつ焼いたものか分からない、あのピザが客に提供されるのだろうか? 
 最近は閑古鳥すら鳴かないこの店の状況に、他人事ながら私は心を痛めている。開店準備の頃は、希望に満ち溢れていただろうに。それにしてもどんなプランで、どれほどの勝算があったのだろう。
 始めるのは案外容易いが、継続は実に難しい。

◎プロフィール

〈 作者近況 〉さえき あさみ
トウモロコシが買えるようになってきた。今年第一本目は熊本産。

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