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エッセイSP(スペシャル)

山鉾・・

たかやまじゅん

2024年8月26日

 映画好きの私にとって、映画館が建ち並ぶ東京は憧れの都市となっていた。幸いにも、社会人となり仕事で配属された先が東京であり、数々の作品に出逢えた。中でも昭和43年11月に新宿ミラノ座で観た中村錦之助さん主演の『祇園祭』がある。
 祇園祭は、貞観11年に全国的な疫病や災害が起こり、京の神泉苑で当時の国の数に当たる66本の矛を建て、悪疫退散を願う『祇園御霊会』が始まりとされる。その後、矛(鉾)を山車に乗せ、飾りを付け大掛かりな祭りへと発展した。
 映画では、室町時代に10年続いた応仁の乱で都が荒廃し、途絶えていた祭りを時の権力に屈せず〝町衆の力〟で復活させる物語で、その配役の豪華さもさることながら都大路を往く山鉾巡行の再現は、スケールの大きさと町衆の意気込みが伝わり印象深くこころに遺っていた。
 この映画は再公開がされず、映像ソフトになることもなかった。ところが祇園祭の宵山と山鉾巡行の日だけ、京都市内で上映されることを識り、生きているうちに〝もう一度観たい〟ものだと京都を訪れた。
 丁度、宵々山に当たり駒形提灯の点った山鉾がそこかしこを照らし、鐘と太鼓に笛が「コンチキチン」と奏でるお囃子を耳にすると、弥が上にも山鉾の先まで気持ちを昂らせてくれる。
 翌日、ワクワクしながら京都文化博物館内のフィルムシアターに足を運ぶと湾曲したスクリーンが、かつての映画館を思い起させくれる。やがて館内が暗くなり憧れ続けた『祇園祭』が映し出されると、初めて観てから半世紀以上経っているのに、ひとコマひとコマが鮮やかに甦ってきた。
 こうした想いの中、山鉾巡行の日を迎えた四条通りは、蒸し暑さと多くの観光客や町の人々の賑わいに混じり、動く美術館と謳われる国際色豊かな懸装品(けんそうひん)に飾られ、「エンヤラヤァ~」の音頭で軋し軋しと動き出す絢爛豪華な山鉾を垣間見る。
 揃いの浴衣と法被姿から、町衆が代々受け継ぐ〝技と心意気〟が伝わってきて、目の前の祇園祭と映画が二重写しのように交差してくるのだった。

◎プロフィール

<このごろ> 京都の宿泊したホテルで、若いフロントマンと話をする。出身が神奈川県、しかも小田原市、さらに高校までが同じと分かりお互いに驚く・・

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