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エッセイSP(スペシャル)

シューズスタジオ サカイ

梅津 邦博

2024年10月14日

 靴の手入れをお願いしようと思い、帯広鉄南地区グリーンベルトに面しているそこは、隣の建物との間1.5m幅くらいのところを入ってゆく。なんだか隠れ家風的な場所みたいな気がするところで、昔ぼくが西新宿にいたころの裏通りみたいな雰囲気がする所で、当時の日活ロマンポルノ映画のロケ地ふうにも感じられる。外観からしてどういうところなのかなという気がし、プレートにはスタジオ名がある。右側ドアに小さな看板が貼られて、ブザーを押すと扉が開いた。メタルフレームの眼鏡にガッシリとしている体型の彼はあふれる様なニコニコとした表情をして現れた。
 靴を自分で手入れをするとしたら大変で、けっきょく普通に持っていってお願いするのだが、1度2度と履いているうちに輝き具合がくすんでしまうのだ。仕事はスーツスタイルなので革靴は大切なものだが、履きつづけていれば踵も減って気になる。何ミリかでも減っていると、なんだか身体が傾いているような気がしてしまう。そしてなんといっても汚れてしまうことが気になってしようがない。そこでスタジオに踵の調整と靴磨きをお願いした。後日出来上がって履いてみるとその出来具合に、感嘆して驚いてしまった。
 履き終えると布で埃や汚れを取り除いてケアするのだが、そのきれいさが保たれている。しかも、何度か履いてもしっかりしているではないか。いったいどういうことなのかと尋ねてみた。すると彼は解説してくれた。
 まず、汚れを徹底的に落とすことから始まる。次に暫くしてから、靴墨を塗ってそうして馴染ませる。そしてまた暫くしてそれから磨き上げる、ということらしい。よくわかりにくいけどそういう時間をかけているらしくて、なるほどと思った。
 仕上がった革靴には、ステージとしての存在感が感じられてならない。これがぼくの靴なのかと透明な大きめのポリ袋に入れて抱えて抱きしめたい心地がする。靴墨のありようを通して輝く存在感に満ちていた。
 歩く場所や歩き方などにも気を付けている。新品とは言えないけれどそういうことを踏まえても、左右の靴を揃えて履き口を親指と人差し指で摘まんで持ち上げてみる。メンテナンスを終えた靴には地と人とのありようが漂っていた。
 靴は、アスファルトや雨を吸った大地や芝生などへと歩くわけで自分のありようを生かせてくれているという大きな働きがあるのだ。サカイ氏はすごい仕事をしている。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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