たたみ・・
2024年10月21日
畳の始りは縄文時代の筵(むしろ)のような物に遡り、弥生時代の遺物でイ草の織物が出土している。また正倉院に現存する最古の畳があり、本来は畳める物とか、折り重ねる敷物が畳の意味だそうな。平安時代には芯となる畳床に、畳表と縁を縫い付けた本格的な畳が生れ、桃山時代の茶室、城郭やお寺の書院などではイ草が使われるようになる。
子どもの頃、家の居間は畳張りの伝統的な日本の家屋であり、丸いちゃぶ台が置かれ家族の団らんの場となっていた。やがてマンション住まいとなり板の間に絨毯やカーペットを敷きテーブルとイスで洋式の生活をする。20年程前、我が家を建てた時には自分の部屋を畳敷きにした。畳の上に座ると自然に心が和らいで来るのだ。
書斎と寝室を兼ねたことで机を置き、昼間は本を読み、パソコンで物を書いていた。夜には布団を敷いて眠りに就き、朝目覚めると布団を上げる。こうして畳での生活を続けるうち、いつしか周りに物が増えて自分の居場所も〝起きて半畳寝て一畳〟のことわざのように狭くなってしまう。
かつて青々としていた畳の色も経年劣化で色が褪せ、所々にインクをこぼした染み跡や擦れてささくれが目立ち、ボロボロになったカスが服やズボンに付着して、歩く度に舞い始めたことから思い切って畳替えをすることにした。
そして業者との打合せでは、ダニやカビを防止し耐久性のある和紙畳を奨められ、「草色の畳表で、縁を同系色にすると部屋が広く見える」とアドバイスを受けた。
かつて実家の畳替えの時、職人が玄関先で畳床に畳表や縁を膝や肘を遣い太い糸と長い針で器用に張り替えていた光景が浮かんで来る。そして江戸中の畳職人と赤穂藩士が勅使を接待する寺院の200畳を、一晩で張り替える『忠臣蔵』の映画やテレビでの場面を思い出すが、その日は早朝に車が来て二人掛かりで積み込み、午後には届きあっと言う間で敷き詰めて行った。
これを機に畳の上に積んであった本なども片付けると、青い畳の匂いが空気の流れを醸し出し、広々とした空間が生まれる。そして素足から伝わる畳の何とも言えない感触から安心感と懐かしさが甦ってくるのだった。
◎プロフィール
〈このごろ〉 幕末の侍が京都の撮影所にタイムスリップし斬られ役となる映画『侍タイムスリッパー』。日本の歴史と時代劇への熱い想いが描かれている。