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エッセイSP(スペシャル)

崩壊

冴木 あさみ

2024年12月 2日

 今年も師走を迎えた。来年令和七年には七十五歳を超える後期高齢者が二千万人を超えるとのこと。六十五歳から七十四歳までの前期高齢者と合わせると、三千六百万人。国民の三人に一人が老人となるわけだ。
 私の勤める障害者の福祉就労事業所も高齢化している。その中にとりわけ困難を抱えた女性がいる。ろうあ者のY子さん、七十二歳で認知症だ。
 ちょうど一年前、初めて事業所に来た時は、時間が分からない状態だった。待ち合わせの時間を約束しても、会えない。認知症を疑うに十分な状況であるのに、彼女を支援する福祉体制の中でなぜか見過ごされてきた。
 私たちが関わるのは障害者の日中就労の支援なので、彼女の私生活は本人からの聞き取りのみで、実情までは全く把握できていなかった。
 やっとケアマネージャーが付くようになり、訪問ヘルパーが自宅に出入りすることで実態が明らかになってきた。自宅マンションの部屋には、山と積まれた通販の商品。使いもしないのに、所狭しと並ぶ食材、調味料や洗剤類、雑誌、服、カバン。冷蔵庫の中は腐ったモノがぎっしり。真夏にエアコンを三十二度に設定している。でもそれらはまだ彼女自身の問題で済まされていた。
 ほどなくマンションのお隣さんへの迷惑行為が勃発した。夜中、早朝構わず呼び鈴を鳴らし、ドアをたたく。不要品を入れた袋をいくつも隣人の玄関の前に置く、意味不明の罵詈雑言を書きなぐった張り紙を張る。隣人家族は不安と恐怖に陥った。警察も幾度となく来ているが、民事不介入の原則で問題解決には至らない。本人は「昨夜パトカーに乗った」と、あっけらかんと職場で話す始末。驚くほどの速度で崩壊していく彼女の姿を、誰もが唖然と見守るしかなかった。
 これ以上他人に迷惑をかけられないと、親戚が彼女を預かるが、その家の家族も二週間で疲労困憊だ。風呂にも入らず着替えもせずに潜り込む布団は敷きっぱなし。客間はぐちゃぐちゃ。目を離せず、夜も眠れないとのこと。グループホームや老人介護施設など探しているが、未だ入所に至っていない。
 最初のころは行政の機関などが集まって支援会議を開いていたが、問題行動が表面化して以来なぜか目の前でシャッターを閉められたように、彼女への支援体制が途絶えてしまった。
 七人に一人が認知症になると言われている。更に少子化、未婚者、独居老人が増えているこの社会は、どうなっていくのだろう。生涯現役で働ける元気な人は幸いだ。でも、私は百歳まで欲してはいない。

◎プロフィール

〈作者近況〉さえき あさみ
日没が早く寒い師走でも、ホワイトイルミネーションの中を帰宅する楽しみで気持ちを盛り上げる。

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